市川右團次の息子・二代目市川右近が魅せる劇的進化——16歳の表現者が切り拓く歌舞伎界のネクストステージ
市川 右 團 次 息子として2017年に初舞台を踏んでから約9年。かつて愛らしい笑顔で客席の心を鷲掴みにした少年は、2026年の今、精悍な面構えの若武者へと変貌を遂げていた。二代目市川右近こと武田タケル。16歳という決定的な変革期を迎え、花道を行くその足取りには、単なる「梨園の御曹司」という枠組みには到底収まりきらない凄みが宿り始めている。
劇場を包む静寂を裂くような鋭いセリフ回しに、客席の熱量は一瞬で跳ね上がる。かつて日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』で日本中を泣かせた名子役の記憶を持つ観客ほど、舞台上で放たれる市川 右 團 次 息子の圧倒的な表現力に息を呑むはずだ。少年特有の愛嬌をきっぱりと脱ぎ捨て、表現の荒波へ真正面から漕ぎ出した彼の現在地を追った。
子役の殻を破る16歳——声変わりを経て深まった身体表現
歌舞伎俳優にとって、10代半ばはもっとも過酷で美しい季節だ。子役としての需要が一段落し、大人の役へと舵を切る端境期。ここで多くの若手が声変わりや骨格の急激な変化に戸惑い、自身の芸を見失いかける。
だが、右近の足取りに迷いは見当たらない。低く太さを増した声帯を巧みに操り、役の心情を腹の底から響かせる。幼少期から培った天性のリズム感に加え、長身へと伸びた手足を余すところなく使った立ち回りは、すでに劇場後方の席まで揺るがす強度を備えている。子供の愛らしさで拍手を浴びる段階はとうに過ぎた。技と気迫で舞台をねじ伏せる青年役者としての矜持が、その見得ひとつに宿る。
父・右團次の背中と受け継がれる「役者の業」
名跡を継ぐ重圧は、凡人の想像を絶する。父である三代目市川右團次は、師・市川猿翁(三代目市川猿之助)の薫陶を受け、ケレン味溢れるダイナミックな舞台で観客を熱狂させてきた叩き上げの巨星だ。
「父のようになりたい」と語っていた幼子は、今や父と並び立つライバルとしての覚悟を滲ませる。稽古場での父子は容赦がない。ミリ単位の狂いも許さない厳しい視線が交錯する。しかし、ひとたび舞台を離れれば、誰よりも息子の資質を信じ、その成長を眩しそうに見つめる右團次の眼差しがある。伝統の厳罰と深い慈愛。その二つの熱源が、右近という表現者の芯を強靭に鍛え上げてきた。
『ノーサイド・ゲーム』から7年、映像界が今なお熱視線を送る理由
2019年、社会現象となったドラマ『ノーサイド・ゲーム』で右近が見せた涙を覚えているだろうか。セリフを超えて感情が溢れ出るような芝居は、茶の間の胸を打った。あれから7年が経った。
映画監督やドラマ演出家たちは、高校生となった彼を放っておかない。歌舞伎で培われた古典の型と、現代劇で要求される生々しいリアリズム。その両方を自在に行き来できる10代の役者は、現代のエンタメ界において極めて希少な存在だからだ。スクリーン越しでも失われない圧倒的な瞳の引力。映像界が彼にラブコールを送り続ける理由は、画面越しにも伝わるその「嘘のない熱量」にある。
難関名門校と花道の往復——Z世代表現者の素顔
右近の日常は、同世代の誰よりも濃密だ。都内の名門校で机を並べる高校生としての顔と、白塗りの化粧を施して数千人の視線を一身に集める歌舞伎俳優としての顔。この極端な二面性こそが、彼の感性をより鋭敏に研ぎ澄ましている。
スマートフォンの画面をスクロールし、同世代のカルチャーに触れる一方で、何百年と受け継がれてきた口伝のセリフを頭に叩き込む。古典の重みを知りながら、現代のスピード感も肌で理解している強み。伝統芸能の枠に閉じこもるのではなく、同時代を生きる観客と同じ空気を吸っているからこそ、彼の芝居には古臭さがない。いつの時代も、歌舞伎を前に進めてきたのはこうした時代の空気を纏った若者たちだった。
劇評家が舌を巻く古典への肉薄とこれからの挑戦
近年、右近が挑む古典の大役に対する劇評は熱を帯びている。ただ型をなぞるだけではない。なぜその人物がそこで刀を抜くのか、なぜその場で涙を流すのか。役の心理の深淵へと潜り込む読解力は、同年代の俳優陣の中でも群を抜いている。
かつて猿翁が創り上げたスペクタクルな世界観と、高嶋屋が培ってきた実直な芸風。その両方の血脈が、彼の体内で化学反応を起こしつつある。若手歌舞伎公演の現場でも、すでに周囲を引っ張る座頭としての風格が漂い始めた。観客はただ芝居を観に来ているのではない。一人の少年が巨星へと羽化していく、その奇跡的な刹那を目撃しに劇場へ足を運んでいるのだ。
伝統を継ぎ、時代を創る——若き獅子の旅路
歌舞伎の灯を守るとは、過去の灰を崇めることではなく、火を絶やさず薪をくべ続けることだ。16歳の右近が選んだ道は、決して平坦なものではない。名門の重圧、絶え間ない比較、そして自己との対峙。
それでも、舞台に立つ彼の表情には一点の翳りもない。むしろ、困難を愉しむかのような不敵な笑みすら浮かべてみせる。父の背中を追いかけた少年は、いま自らの足で新たな大地を踏み締めている。歌舞伎界の未来を照らす若き獅子の咆哮は、まだ始まったばかりだ。 (出典: 市川 右 團 次 息子(Yahoo!ニュース))